歯周病って何でしょうか?

「歯周病は成人が歯を失う原因の第一位」
「歯周病は全身の疾患に関与する」

歯周病についてさまざまなメディアが、さまざまな情報を発信していますが、そもそも歯周病とはどのような病気なのでしょうか?

その解説の前に、歯とその周囲組織の関係についてお伝えします。

歯とその周囲支持組織

歯は、口の中に頭を出している高さと同じか倍くらいの長さの根が骨で支えられています。 この、歯を支える骨を「歯槽骨」といいますが、歯槽骨と歯根とは、完全にくっついているのでは なく、歯根膜という靱帯のような組織がクッションの役目を果たしながら両者をつないでいます。

歯槽骨は、歯肉という組織で覆われています。健康な歯肉は、薄いピンク色で、弾力があり、 引き締まっています。少しの刺激では出血しません。

歯槽骨と歯肉は完全に密着していますが、歯と歯肉は完全にはくっついておらず、一部境 目に隙間というか、溝ができています。深さは3㎜程度です。これを歯肉溝と呼んでいます。 歯周病は、この溝に細菌が住みつくことから始まります。

歯周病の原因

本来、歯の表面はつるつるで、また唾液による自浄作用があるので、細菌はそのままでは歯の表面にとどまることは困難です。
歯肉溝に細菌がとどまる助けをするのが、歯石と歯垢です。

歯石は、歯垢に唾液中のカルシウムが沈着して石のように固くなったものです。
表面が、歯面とは違って粗造な構造なので、それ自体が歯肉を刺激して炎症を引き起こします。 それだけではなく、ザラザラしているので歯垢も付着しやすくなり、結果として歯肉の炎症を悪化させます。

歯垢は、ただの食べ物のかすのように思われがちですが、その正体は 流しのヌメリや川底の石の表面のヌルヌルと同じような構造で、 歯周病菌や虫歯菌などのさまざまな微生物の塊です。
しかも、ただ集まっているだけではなく、表面に粘着性のバリアの ようなものを形成して、自分たちを免疫物質などから守っています。
このような微生物の集合体をバイオフィルムと呼びます。
この、強力なバイオフィルム内で、虫歯菌は糖分を分解して酸を産生し、
歯周病菌が放出する毒素によって歯肉に炎症が起こるのです。
バイオフィルムは強い粘着性があるため、うがいだけでは除去できず、
また内部の細菌には消毒薬も抗菌薬も浸透しにくいため、取り除くには歯ブラシなどの物理的な力が必要なのです。

歯周病の進行

歯肉溝の中に入り込んだ細菌の中には、毒素や酵素を出すものがあり(歯周病原菌)、その影響で歯肉に炎症が引き起こされます。 この状態を歯肉炎と呼び、歯肉が赤く腫れるために、健康なときと比べて歯肉溝は相対的に深くなり、さらに細菌がたまりやすくなります。
このとき、歯肉が赤く腫れるほか、むずがゆい、歯石がつく、歯肉から出血する、といった症状も伴いますが、 歯の周囲支持組織が破壊されるわけではないので、炎症が治まれば、また元の健康な状態へと回復します。

炎症が歯肉だけでなく歯を支える周囲組織にまで及んだ状態を歯周炎と呼びます。
歯周炎は、臨床的に「軽度」「中等度」「重度」の3段階に分けることができます。

軽度歯周炎
歯肉溝内の歯周病原菌の出す酵素や毒素は、歯の支持組織を破壊し、その結果、歯肉溝は深くなってしまいます。 歯肉溝の深さが3㎜よりも深くなると、健康な状態とは区別して歯周ポケットと呼ばれます。
3-5㎜の歯周ポケットが存在することを軽度歯周炎と呼びます。
軽度歯周炎では、歯肉の腫れも強くなり、歯ブラシなどの少しの刺激でも出血したり、歯周ポケット内にも歯石が沈着する、歯が少し揺れるなどの変化がおこりますが、 強い痛みが出ることは少ないので、本人が気づかないままのことが多いです。

中等度歯周炎
さらに歯周組織・歯槽骨の破壊が進んだ中等度歯周炎では歯周ポケットが4-7㎜となります。 これは、歯を支える骨が、根の1/2-2/3に減ったことを意味します。 歯肉の腫れ・赤みが増し、痛みが自覚症状として現れてきます。歯肉から自然出血したり膿がたまったり、 歯の動揺が大きくなってくる、という症状も出てきます。

重度歯周炎
骨の吸収が著しく進行し、ポケットの深さが6㎜以上となり、歯槽骨は歯根の半分も支えていない状態が重度歯周炎です。 歯の動揺が著しいので、食べ物がかめなかったり、痛みや膿の程度も強くなります。「歯槽膿漏」と呼ばれることもあります。 この状態にまで進行すると、歯を保存するのが難しくなり、時には自然脱落してしまうこともあります。

むし歯は、細菌の作る酸によって、歯そのものが破壊される疾患ですが、歯周病は、歯そのものではなく、歯を支える支持組織が壊される疾患です。

健康な歯肉

歯肉炎

軽度歯周炎

中等度歯周炎

重度歯周炎

歯周病の危険因子

歯周病の一番直接の原因はバイオフィルムと歯石です。
しかし、それ以外の生活習慣の中にも、歯周病の危険因子が存在します。

口の中の危険因子
 歯ぎしり 歯周組織に負担が大きくかかるので、歯周病を悪化させます。
 口呼吸 口呼吸とは、鼻からではなく、口で息をすることです。
口呼吸をすると、歯肉が乾燥しやすくなります。 粘膜は乾燥すると炎症が起こりやすくなります。

全身的な危険因子
 タバコ タバコは歯周病の最大の危険因子とされています。
タバコを吸う人は,、吸わない人に比べて歯周病の進行が早いうえに、
治療しても治りにくくなることが知られています。
 糖尿病 体の抵抗性が低下していることが多いので、歯周病が悪化しやすくなります。

このほか、妊娠中はホルモンバランスの影響で歯肉炎が起こりやすいとされています。

歯周病と全身疾患

歯周病を悪化させる全身的な危険因子については前述のとおりですが、 逆に、歯周病の原因菌がつくる毒素が血液中に入ることで、全身の健康に悪影響を及ぼすことがあるとされています。

 心臓病
 動脈硬化
歯周病が進行していると、心臓病を引き起こす確率が高まる。
 糖尿病 糖尿病が歯周病を悪化させるだけでなく、逆に糖尿病の合併症で歯周病が悪化するという研究結果がある。
 肺炎 高齢者は、歯周病菌などが原因となる「誤嚥性肺炎」を起こしやすい。
 低体重児出産 歯周病の妊婦の場合、低体重児率が通常より高い。

歯周病の治療

歯周病の原因についてはある程度ご理解いただけたと思います。
歯周病とは、歯の周囲に付着したバイオフィルムや歯石が原因で歯周組織に起こった炎症が、生活習慣や全身疾患と複合的に 増強しあった結果といえるものです。

歯周病の治療は、お口の中の情報を集めることからはじめます。
歯周ポケットの深さを計測したり、レントゲンで骨の状態を確認します。 また、はじめのときのお口の状況を写真などで記録することは、歯肉の色や腫れの程度を治療後と比較するために大切です。

歯周病の初期治療は、歯周基本治療とも呼ばれるように、 炎症の原因であるバイオフィルムや歯石を取り除くことから始めます。
また、普段のセルフケアも歯周病を改善させるために重要です。

初期治療の後、再度歯周ポケットの状態を検査します。初期治療では治りきらないところがあれば、 再度歯石除去を行ったり、かみ合わせの調整、場合によっては歯周外科治療などを行ってゆきます。